せっかち現代

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『嫌われ松子の一生 赤い熱情篇』について

品川プリンスホテル クラブeXにて上演された『嫌われ松子の一生 赤い熱情篇』を観てきました。
私が観たのは、9/30(土)、10/6(木)の14時、19時、10/8(土)の計4公演です。
ネタバレも交えて、感想を書こうと思いますのでご了承下さい。

桜井玲香さんが『嫌われ松子の一生』で『川尻松子』を演じると聞いた際は、私は少し心配でした。『憑依型』の演技をする桜井さんが休養明けで、心身ともに負担のかかる松子役に耐えきれるのかと。しかし、実際に舞台を観ると、私の不安など杞憂に過ぎなかったと思わされる熱量で『川尻松子』役を演じていました。

桜井さんの演技はまさに『赤い熱情篇』という副題に恥じない、熱量に満ちたものでした。『川尻松子』は人生において重要な選択を迫られた際に、常に結果的に「不幸」になる方の選択肢をとった人です。ただ、その選択にはどれも「誰かに必要とされたい」、「好きな人の役に立ちたい」という軸があり、客観的な「正しさ」・「常識」には縛られない人であった。つまり、能動的に人生を選択することを貫いた人の話で、その軸をもつ強い女性を桜井さんは熱量をもって見事に演じきったと感じました。

また、桜井さんが演じる松子を観ていると、「不幸」とは何かということを考えさせられました。たとえ、他者から見て「不幸」であったとしても、本人がそれを「幸せ」と感じているとしたら、その人生を誰が否定できるのでしょうか。また、松子は「自分の可能性を試さず」生きてきた登場人物の岡野よりも、人生から多くのものを受け取ったと思います。それでも果たして松子は不幸といえるのでしょうか。
もし松子に「不幸」があるとすれば、最後に龍くんに逃げられたときに、自身の歩んできた人生が「他人から笑われる」「メロドラマ」のようだと気づいてしまったことにあると思います。これは松子の人生だけでなく、私たちの実人生でもいえることで自身の人生を他者と比べ、相対化することこそ「不幸」なのだというこの物語がもつ教訓のように感じられました。

また、この作品は、舞台演劇の楽しさを教えてくれるような作りになっていて、舞台弱者の私もとても舞台が好きになりました。私は計4回この舞台を観たのですが、劇場が円形となっていることから、座席によって役者の表情など、毎回発見がありました。
桜井さん以外のキャストの方で、私が好きだったのは堀越涼さん演じる小野寺でした。彼が舞台にでているときの「明らかにやばい奴が今舞台上にいる」感がとても良かった。あとはなだぎ武さんが突如乃木坂ネタを放り込んできたときの会場の笑い声も含めた、『川尻松子』が桜井玲香に戻りそうになる瞬間もとてもスリリングでした。
あと忘れられないのは照明と音響の使い方で、序盤の松子が初めてトルコ風呂の面接にいくシーンでなだぎさんが喋り始めた瞬間、会場が明るくなり、曲が流れだす瞬間が、これ以上ないほどに最高だった。ああ、今日も松子の一生が始まってしまったという気持ちにさせてくれました。

私の好きなシーンはラストシーン。龍くんが松子の骨壺を抱きかかえている後ろで、祭壇に写された松子が微笑むシーンです。松子という『神』が龍くんの内面にやっと住み移った瞬間をとらえたラスト。
私はあの瞬間、龍くんだけでなく、桜井さんや観客の内面にも松子が刻みこまれたような気がして、とても感動しました。松子の人生は終わってしまいましたが、あの狭いクラブeXにいた全員に松子が生涯抱き続けた気持ちは継承され、そしてそれは松子のように「不幸」な結末にはならないのではないかと微笑む松子を観ながら思いました。

とにかく、『嫌われ松子の一生 赤い熱情篇』とても楽しめました。
『川尻松子』を胸に、これからも『女優』桜井玲香さんを応援・注目し続けていきたいと思います。